「お前が投げてどうするんだよ。あの子に何が出来るんだよ。」返す言葉がなかった。
親父は九歳で父親亡くして。上のお兄さんの力添えがあって定時制高校と国立大学出た人で。
自分と似た境遇の彼女を、その頃の自分に重ねてた部分はあったと思う。必死な声だった。
おかんが彼女と話してだいぶ進学に傾いて。俺と行った職安で結構長く求人票漁った。
中学出てすぐの女の子が就ける仕事は限られていて。働いても得られる給料はたかがしれてて。
家族二人の生活を成り立たせる事は難しい。その現実を改めて見て知って。少し落ち込んで。
「フツーの生活って、難しいですね。」働いて、給料貰って、それで生活すること。
それが彼女の言う普通の生活。あの頃の彼女にはとても難しい事だった。
彼女は生活保護受けてる事を凄く嫌がってて。その立場から早く逃れたくて、就職を急いでいた。
生活保護イコール貧乏とお母さんの死。彼女の中ではそんな方程式が成り立ってて。
普通の生活がしたい。その願いが焦りを産んでいる状態。俺にもそのくらいは感じ取れた。
部屋いる時の彼女は、俺の膝乗ってきたり、背中にくっついたりで。静かに悩んで。
何か言葉かけようにも、出来ない雰囲気で。結局撫でて。自分の不安をごまかした。
何日かして。学校行く前に来て。俺の「おはよう」より先に「あと四年だけ、保護受けます。」
それで彼女の決意は解った。俺も「がんばろ。」だけ。彼女は「頑張ります。」
そう言って、小さくお辞儀して。その彼女の頭ぽんぽんやって、送り出して。
その時は、何よりも悩んでる彼女の姿をもう見なくてもすむ事が嬉しかった。
俺はその日は休日だったから、朝一でお婆さんのとこに様子見に行ってみたら、安堵した表情で。
俺の顔見るなり「ありがとねぇ本当に。」とお礼言ってくれた。でも何か納得いかなくて。
この時も親父の力借りて。結局何もして無くて。また彼女の横でそわそわしながら様子見てただけ。