「だってしょうがないじゃない!膝がくすぐったいんだもん!」
涙声の告白が、Tさんの唇から発せられた。
「え?くすぐったい?」
完全なる予想外の返答に、自分はしばしポカーンとなってしまった。
「うん…。くすぐったい」
Tさんはうつむくと、涙交じりの声で言葉を続けた。
「中学の頃は何ともなかったの。でも高校に入ってから急に、膝の裏に当たるスカートの裾の感触が気になってきちゃって…」
話しながら、Tさんの顔はだんだんと赤く染まっていった。
「友達と話してる時に、何回かスカートの裾に膝の裏をくすぐられたことがあって…」
「………」
「ピクってなっちゃったり、変な声出しちゃたりして。すごく恥ずかしかった」
「そういう…ことだったのか」
「寒さは頑張れば耐えられるからいいの。でも、くすぐったいのはどう頑張っても耐えられなくて…」
「そりゃ…そうだよね」
「わかってくれる…?服装検査の日に膝丈まであるスカート履くの、結構真剣に憂鬱なの…」
そしてTさんはしょぼん、と肩を落とした。
「私だって本当は、校則違反なんてしたくない…。だけどくすぐったくて、どうしてもガマンできないの…」
Tさんの告白を聞いた後、自分の心の中は罪悪感でいっぱいになった。
「ごめん。そんなに深刻な事情があったなんて全然知らなかった。本当にごめん。酷いこと言ってごめん!
自分はTさんに深く、深く頭を下げた。
Tさんはハンカチで涙に濡れた目尻を拭うと、首を左右に振った。
「ううん、いいよ。むしろ、嬉しかった」
「嬉しい?どうして?」
「こんな私のこと、真面目だなんて。そんな風に見てくれてたなんて、全然知らなかったから」
そしてTさんはにこりと微笑むと、自分と同じように頭を深く下げた。
「ありがとう。私なんかをずっと見てくれていて」
ああ、よかった。
やっぱりTさんは、Tさんのままだったんだ。
安心すると同時に、Tさんのお礼の言葉がどうにも照れくさくて恥ずかしくてたまらなくなる自分だった。
そして。
「ね。もうすぐ期末テスト、始まるよね」
「え?ああ、そういえば」
「もし、もしよかったらでいいんだけど…」
「え?」
「次の日曜日、一緒に図書館で勉強したりとか、しない?」
Tさんはおずおずと、自分に向かって右手を伸ばしてきた。
予想外の誘いだった。
「どうして僕と?」
「だって○○君って…」
Tさんは目を伏せ、ゆっくりと言葉を発した。
「私よりもずっとずっと、真面目な人だから。そんな人と一緒に…」
差し出されたTさんの手を、自分は右手できゅっと握り返す。
「ありがとう。本当に…嬉しい」
Tさんの柔らかな右手の温もり。
それはTさんの心のように、とてもとても温かいものだった。
※ ※ ※
巷に溢れかえる、短いスカートを履く女子高生達。
彼女達の中にもTさんのように、膝のくすぐったさに苦しめられてきた子がいるのかもしれない。
そういえばTさんは1つ、大きな誤解をしてると思う。
だって自分がTさんより真面目だなんて、どう考えてもあり得る訳がないのだから。