【帰路】
電車から降り、きらびやかな商店がひしめく駅前通りを歩いて家路をたどる。
いつも通りの学校からの帰り道。
この1年間、足取りが軽かった記憶は一度もない。
駅前通りから裏道へ一本入り、200メートルも進むと住宅街が現れる。
その中の、これと言って何か特徴があるワケでもない平凡な一軒家。
僕の自宅だ。
ガチャ
出木杉「ただいま。」ボソッ
母「あっ、ヒデ。おかえり。」
出木杉「・・・・・・。」
無言でスニーカーを脱ぐ。
元々は靴ひもを一回一回ほどいて脱いでいた。
だが、今はそれが億劫で、わざと弛く結んで脱ぎやすくしている。
早く部屋に籠りたい。
今日は塾も家庭教師もない代わりに、自主勉強が待っている。
本音を言えば何もかも投げ出して、ベッドに沈みたかった。
だが、それは許されない。
僕には憩いを求める資格などない。
早く、努力の海に飛び込まねば。
母「ヒデ。学校、どうだった?」
出木杉「・・・・・・。」ズカズカズカ
母「ヒデ・・・。」
どうもこうもないよ母さん。
いや、違うな。
どうもこうもありまくりだよ。
でも、それを率直に言えって?
調子に乗って自分の力量を見誤って、身の丈に合わない授業内容に伸び悩んで、期末テストが終わっても息つく暇なく靴ひもをほどく手間すら惜しんで机にかじりついて、今日はこのまま朝まで勉強コースだよって?
母「ねぇ、ヒデ。」
僕は努力をする為に生まれてきたんだ。
努力は結果を伴って初めて努力と成る。
結果が伴ってない今の僕は、努力ができていないんだ。
そんな人間は出木杉家にいちゃいけない。
母「ヒデ・・・・・・ちょっと。」
僕は絶対負けない。
次こそは必ず結果を出して見せる。
そうだ、今日は徹夜で勉強しよう。
だいたい、努力のできてない人間が明け方に寝るなんて贅沢しちゃいけない。
これからは1日おきに徹夜で勉強しよう。
それから・・・
母「英才!!!!!!」
出木杉「!!」ビクッ
母「返事ぐらいしなさい!!」
出木杉「えっ・・・あ・・・・・・」
我に返った途端、猛烈な反省の嵐に見舞われた。