「ひょっとして二階に住むの検討してるの?やめといたほうがいいわ。悪いこと言わないから」
なんてひそめもしない声で言って、ノシノシ歩いて行く。
「えーと、今のって二階に人が入ると、うるさくなるからってことですかね?」
「いえ、ご希望どおりに、問題がいろいろとあるかわりに家賃一万円のお部屋ですので」
「1か月住んだら9千円にまけて」という条件でそのアパートに引っ越したが…
不動産屋もお勧めできないと言い、
大家も住んでくれるだけで有難いと敷金も礼金もなしという条件は、
金のない男にとっては渡りに船、むしろお勧め物件でした。
そこでさらに男は条件を付けました。
「一ヶ月住むことができたら、その後九千円にまけてもらえませんかって交渉ありですか?」
と…
結局大家はその条件を了承し、男は引っ越してきました。
不動産屋の今まで死者は出ていないという証言が唯一の救いでした。
この部屋、色々、すごかった。
まず、住むために荷物をいれる途中、息苦しくなった。
ただし、僕じゃない。
何も知らない配送業者の人が胸や首を、ほぼ全員しきりに触ってた。
で、みんながみんな壁の変な札っぽいものを見る。
あと、きがたってるのか、差し入れの弁当と飲料をわたそうと肩を叩くと、
電動マッサージ機かっていうほど震え上がった。
初日の夜、寝ようと思っていると、押入れのあたりから気配を感じる。
音とかじゃない。
絶対あのむこうにいやがるぜ!っていう感覚なのね。すんごい怖い。
でも、
バイトしながら、芸能事務所にトレーニング料支払ってっていう生活を思うと、
超安物件にどうしても入る必要があった。
もうあんまりにも怖くて、おばけなんてないさを寝るまでずっと歌ってた。
それから毎日、とにかく部屋にいるときは歌った。
もうとにかく歌った。
もちろん、曲目はおばけなんてないさ。
で、日本酒常備。
100円ショップのやすぐいのみでお供え。
それとコメを毎日少量づつ、100円ショップの安皿の上に載せた。