しんちゃんは力なく歩く。肩を落としているようにも見えた。
「――お?」
ふと、しんちゃんは足を止める。
(ん?しんちゃん、どうしたの?)
彼の見つめる先を追ってみる。
するとそこには、若い女性が立っていた。
(あの人は……)
この辺には不釣り合いな女性だった。
カジュアルな服装に帽子……都会の方で見かける女性だった。
その人は辺りをキョロキョロと見渡している。誰かを、探しているようだった。
(……しんちゃん、あの人……)
しんちゃんの方を見てみた。……そこには、既に彼の姿はなかった。
「――お姉さーん!」
「え?」
女性の方で、しんちゃんの軽い声が響く。
もしかして……そう思い、声の方を見れば……
「あはぁ、オラ野原しんのすけ、5歳。好きな食べ物は納豆、好きな女性のタイプは……」
「ええと……」
しんちゃんの言葉に、女性はたじろぐ。さっきまでの落ち込みようはどこに行ったのやら……
「ええと……僕、この家の人知らない?」
女性は、お爺さんの家を指さす。お爺さんの、知り合いだろうか……
「おお!オラ知ってるぞ!あっちで大根取ってる」
「畑の方?」
「そうそう、畑だぞ」
「そう……」
女性は、畑の方角に視線をやる。
彼女の黒い瞳は、どこか揺れていた。
「……お姉さん、じっちゃんに用事があるの?」
しんちゃんの言葉に、女性は少し沈黙する。
「……ええ。ちょっと、ね……」
「待ってたら帰って来るけど?」
「そうね……今日は帰るわ。ありがとう、僕……」
「オラ僕じゃないぞ!しんのすけだぞ!……しんちゃん、って、呼んで」
頬を赤くするしんちゃん。女性は、苦笑いを浮かべていた。