「……坊主、ちょっとの間、ここに住むか?」
「――ッ!?あ、あんた!?」
「家に帰すのはいつでもできる。それに、駐在所さんも里帰りしとるけんな。2、3日預かって、様子を見ればええ」
「……で、でも……」
「……それに、このまま帰すのは、な……」
「……」
お爺さんは、遠い目をしながらそう話す。
そんな彼の姿を見たお婆さんは、それ以上何も言わなかった。
……そしてしんちゃんは、しばらくお爺さんの家にお世話になることになった。
「――ほれ坊主。もっとしっかり腰入れて引っこ抜かんか」
「ふいぃ……大根って抜けないぞ……」
しんちゃんは今、お爺さんの畑作業を手伝っている。
炎天下の中、額に汗を流しながら手伝うしんちゃん。
……でも、お爺さんとお婆さんはどうしてしばらく面倒見ようって思ったんだろう。
普通なら、真っ先に警察に届けるはずなのに……
何か悪いことを考えている様子はない。どちらかと言えば、どこかしんちゃんの気持ちを分かろうとしているところもあった。
(……もしかして、何かあるのかな……)
そんなことを勘ぐってしまう。
もちろん、犬の僕にそれを確かめる術はない。
だけど、やっぱり気になってしまう。
「――おお!抜けたぞ!」
気が付けば、しんちゃんは大きな大根を収穫していた。
「よくやったな坊主!そいつは大物だぞ!」
よほど嬉しかったのか、しんちゃんは泥だらけの大根に頬擦りを始めた。
「ああん、この感触、まるで母ちゃんの足――」
そう言ったところで、しんちゃんは動きを止めた。
大根を抱きかかえたまま、立ち尽くして何かを思っているようだ。
「……どうしたん?坊主?」
「……オラ、家に戻ってる……」
「え?あ、おい!」
お爺さんの呼び掛けにも応じず、しんちゃんはお爺さんの家に向かって歩き始めた。
僕はただ、彼の後を追いかける。後ろを見たら、お爺さんは首にかけたタオルで汗を拭きながら、立ち去るしんちゃんを見つめていた。