「ところでしんのすけさん。あなたは確か、中小企業で働いていたのではありませんか?どうしてこの工場で……」
「ええと……それはね……」
「……あ、もしかして言いにくい事情がおありなんですか?それなら、無理に言う必要はありません」
「……そ、そう?ありがとう、あいちゃ――」
「――こちらで、調べますので……」
「へ?」
「――黒磯」
あいちゃんの呼び掛けに、天井からスーツ姿の黒磯さんが降りて来た。
「―――!?」
黒磯さんは、白髪になっていた。色々と苦労が多いのかもしれない。それでも、その白髪頭は、まるで歴戦の戦士のように見える。なんというか、渋い。
黒磯さんは、オラに深々と一礼した。
「……お久しぶりです、しんのすけさん。お元気でなによりです」
「あ、ああ……黒磯さんも……相変わらずだね……」
「黒磯。至急調べなさい」
「――御意」
あいちゃんの言葉に、黒磯さんは再び天井にロープを投げ、スルスルと昇って行った。
……色々と、レベルアップをしているようだ。
それから十数分後……
「――戻りました、お嬢様……」
今度は床下から這い出てきた黒磯さん。何でもありのようだ……
(ていうか、早すぎるだろ……)
そして黒磯さんは、一枚の紙をあいちゃんに渡す。
それを見たあいちゃんは、目を伏せた。
「……なるほど……こんなことが……しんのすけさんの心中、お察しします」
「察する程でもないって。特に何も考えてなかったからね」
「それでも、人のために行動するその御気持ち……あいは、感動しました!」
あいちゃんは紙を抱き締めながら、天を仰いだ。
「そんな、大袈裟だなぁ……」
するとあいちゃんは、視線をオラに戻す。そして、優しい笑みを浮かべて、切り出した。
「――しんのすけさん、あなたは、今の職場で働いていくおつもりですか?」
「う~ん……まあ、僕がいないと困るだろうし……。それより、なんで?」
「……実は、酢乙女グループの本社ビルで、新しく1名の雇用を募集しているのです」
「酢乙女グループの?」
「そうです。――しんのすけさん。そこに、応募してみませんか?」
「……え?」