「……お兄ちゃん、どうしたの?」
「……いや、別に……」
疲れ果てて、オラは家でぐったりしていた。
ボディーガードという名目でなってはいるが、ほとんど秘書のような存在だった。
あいちゃんのスケジュールを調整し、送迎をする。何か希望があれば、可能な限りそれに応える。
これまで、黒磯さんが一人でしていたことだ。
黒磯さんは感激していた。
何でも、ようやくあいちゃんも認める後継者が出来たとか。
黒磯さんに、仕事のいろはを叩きこまれる毎日だった。
(あの人、これをあいちゃんが小さい頃からやってたんだよな……タフなはずだ……)
いずれにしても、給料面はかなり上がった。以前勤めていた会社よりも、ずっと。
だがその分体力を消費するのは否めない。工場よりも、ずっと。
……その時、ひまわりが小さく呟いてきた。
「――お兄ちゃんさ……なんか、私に隠してない?」
「……え?」
ひまわりの方を振り向いた。彼女は、とても辛そうな顔をしていた。
「……隠すって……」
「……私さ、今日、お兄ちゃんの会社に行ったんだよね。久々に、一緒に帰ろうって思って……」
「―――ッ!」
「上司の人に聞いたよ。――お兄ちゃんが、会社を辞めたこと……」
「そ、それは……」
ついに……気付かれてしまった。いずれ言おうと思っていたことだった。だが結果として、秘密にしていたとも言えるだろう。
ひまわりは、とても悲しそうに目を伏せていた。