「――え!?あいちゃんが行方不明!?」
「はい!送迎係の者が、少し目を離した隙にいなくなってしまったようで……」
会社に出勤したオラに、秘書の女性が慌てながら伝えてきた。
あいちゃんが、どこにいるか分からないという。
「GPSとかであいちゃんの場所は分からないんですか?」
「それが、あい様はGPS機能つきの携帯電話、バッグ、靴等をすべておいて行ってしまっているようで……」
(靴にまで……さすがはあいちゃん……)
などと感心している場合ではない。
いなくなったのは自宅敷地内から。そして、寸前まで送迎の車に乗車していた。
状況から考えるに、誘拐の線は薄いだろう。あいちゃん自らが、どこかへ行った――そう考えるのが、妥当だと思う。
ではいったい、彼女はどこに行ってしまったのか……
手がかりは、今のところない。
酢乙女家の監視体制を熟知している彼女にとって、その目を逃れるのは容易いのかもしれない。
「……とにかく、オラも探してみます」
「は、はい!よろしくお願いします!」
オラは急いで会社を飛び出した。
今のところは誘拐ではない。……だが、超大企業のご令嬢がうろつき回っていては、そういう“目”に変わる可能性だって十分考えられる。
(あいちゃん……どこ行ったんだよ……!)
不安な気持ちを抱えたまま、オラは高層ビルが立ち並ぶ街を走り回った。