「はあ……はあ……」
しばらく走り回ったオラの息は、すっかり上がってしまっていた。
行きそうなところを手当たり次第走りまわったが、結局あいちゃんの行方は掴めないままだった。
(もう少し、探す範囲を広げてみるか……)
オラは汗だくのスーツを着替えるべく、いったん家に向かった。
あいちゃんは、いったいどこに行ってしまったのか。そして、どうしていなくなってしまったのだろうか。
最近のあいちゃんの様子は、明らかにおかしかった。
オラに、もっと何か出来ることがあったのではないだろうか……
そんなことを考えながら自宅に戻ったオラは、ネクタイを緩めながら玄関を開ける。
今日は、ひまわりは風間くんと遊びに行っていて、誰もいなかった。
誰もいない家に、オラは一人帰りを伝える。
「……ただいま」
「おかえりなさい。しんのすけさん」
「ああ、ただいま、あいちゃん……」
オラは笑顔を見せる彼女に同じく笑顔を返して、家の奥に向かい…………
………………って
「えええええええええええええ!!??あいちゃん!!??」
誰もいないはずのオラの家には、いるはずのない、あいちゃんの姿があった。
オラは慌てて、あいちゃんに詰め寄った。
「まあしんのすけさん、すごい汗……」
「え!?あ、ああ、ちょっと街中を走り回って……って、そうじゃなくてっ!!!
あいちゃん!!こんなとこで何してるの!!??」
「何をしているのか、と言われましても……。あ、そういえば、自宅の鍵を玄関のポストに入れておくのは、少しばかり無用心ですよ?」
「あ、ああ、ごめん………ってそうじゃなくてっ!!!
会社はたいへんなことになってるよ!!??ほら!すぐに一緒に会社に―――!!」
「――しんのすけさん」
「―――ッ!?」
突然、あいちゃんはオラの言葉を遮った。その言葉には、どこか迫力があった。オラは思わず、続きの言葉を飲み込んでしまった。
「……しんのすけさん、確かおっしゃってましたよね?出来るだけ、力になると……」
「……あ、ああ。言ったのは言ったけど……」
するとあいちゃんは、再びオラに笑顔を向けた。
「――でしたら、私と一緒に、駆け落ちをしてくださいませんか?」
「…………へ?」
……あいちゃん、今何か、口走ったような……
確か……駆け落ち、とか……
「……って、えええええええええええええええええ!!!???」
彼女の言葉を理解した後、本日二度目となるオラの叫びは、家中に響き渡るのだった。