「――私、こうして普通の電車に乗るの、初めてです!」
「へ、へえ……」
「少し遅くて揺れてますけど、こうしてゆっくり旅が出来るのも悪くはありませんね!」
「そ、そうだね……」
あいちゃんは、少し興奮気味だった。
オラ達が乗るのは、地方のローカル線……平日だったこともあり、乗客はまばらだ。
ぼやぁっと窓の景色を見ていたが、最初都会だった景色も徐々に建物の数が減っていき、今では長閑な景色が広がっている。
こうして景色が移り変わる様は、もしかしたら人生に通じるものがあるのかもしれない。
そんな柄にもないことを、頭の中に思い浮かべていた。
そんなオラとは違い、あいちゃんはどうやらこのローカル線というものが、よほど新鮮だったようだ。
椅子に座りながらも、必死に首を伸ばして、窓の外を眺めていた。
……なぜオラ達が、こうして電車に揺られているかというと、あいちゃんの頼みだったからだ。
~数時間前~
「――駆け落ち!?ど、どういうこと!?」
オラの家において、あいちゃんに問い詰めた。
しかしあいちゃんは、あくまでも淡々と答える。
「その通りの意味です。私と、どこかへ旅に出ましょう」
「旅って……」
するとあいちゃんは、表情に影を落とした。
「……お願いします、しんのすけさん」
そしてそのまま、深々と頭を下げた。
そう思い立った理由は言わなかった。聞けば答えてくれたかもしれないけど、どうしてだか、聞こうとは思わなかった。
それは、きっと彼女の口から、誰にも促されることなく聞きたかったのかもしれない。
彼女が何を思い、何を感じたのか……それは、オラが容易く聞けることではないのかもしれない。
そう、思った。
だからオラは、あいちゃんを連れて電車に乗った。
……実のところ、黒磯さんには密かに連絡を入れている。警察に届けられたら色々と面倒だろうし。
黒磯さんはすぐにでも迎えに行くと言ったが、オラが断った。
それがあいちゃんの意志であることを告げたら、黒磯さんはそれ以上止めなかった。
そしてただ一言、オラにこう言った。
「――お嬢様を、よろしくお願いします……」