それからのあいちゃんの押しは凄まじかった。
一つ、開き直ったのかもしれない。
弁当作りに出張という名のドライブ……一切引くことのないその様は、さしずめ防御を捨てた突撃兵といったところか。
家に帰れば、ひまわりからは結婚を勧められる毎日。
「はぁ……」
思わず、ため息が出てしまった。
「……どうしたんですか、しんのすけくん。ため息なんて吐いて……」
車を運転する黒磯さんは、視線を前に向けたまま聞いてきた。
「い、いえ。ちょっと最近、疲れてまして……」
「……お嬢様、ですか?」
「ハハハ……」
“はいそうです。”……などと返すわけにもいかず、とりあえず失笑で茶を濁す。
すると黒磯さんは、ふっと笑みを浮かべた。
「……少しばかり、大目に見てあげてください。お嬢様は、ご自身でも接し方があまり分からないのです」
「……小さい時には、ここまでなかったんですよ。ちょっと、びっくりしちゃいまして……」
「確かにお嬢様は、幼少時からしんのすけくんお慕いしておられました。
……ですが、やはり幼児期と今では、想いの位置が違うものです」
「想いの、位置……」
「はい。幼児期には、憧れが大きなシェアを占めるものです。しかし今は、それとは別の何かに惹かれています。
小さな頃から変わらない想い……しかし、実際の心境は、あの頃とどこか違うと違和感を覚えているはずです。
――故に、お嬢様自身、戸惑っているところもあるのです」
「……」
「ですから、今は暖かく見守ってあげてください。
これはボディーガードとしてではなく、私自身からの願いですよ」
「……黒磯さんは、大人ですね。凄くダンディーだと思います」
「ハハハ……私は、ダンディーなどではありませんよ。
――私はただの、黒磯です」
(……ダ、ダンディーぃ……)
