「何?」「行きたい所があります。」「どこ?」聞くと、お母さんのお墓で。
命日には行きたい。けどお婆さんは「何度も泣きたくない。」と渋ってて。
電車賃は貰ったけど一人で行くのは初めてだから不安で。いつ言おうか迷ってた。
そんな事言われて。「行こ。」それだけ言うと、「よかった。」って、笑ってくれて。
バイトの出勤表二人で見て、行く日はすぐに決まった。六月中旬の土曜。何日か前倒しだった。
朝少し早起きして。顔剃って、風呂入って。
何となく、儀式の前のような、そんな気がして。普通の格好だけど身綺麗にはした。
約束の時間にドア叩いた彼女は、無地のTシャツにジーンズ姿で。どちらも少し、緩めで。
そのせいか、いつもより少し小さく見えて。髪も、その日は結んでなくて。
肩口までの髪、サラサラ遊ばせてて。そのせいもあってか、少し幼く見えた。
「おはよ。」「おはようございます。」そう言っただけで、すぐ出発して。
駅まで歩いて、朝八時四十何分だったかの電車に乗って、席取れて。
電車の中では、彼女は酔うのを怖がって、殆ど目閉じて、眠ってしまおうとしてて。
邪魔しない方がいいんだろうなと思って、話しかけるのはやめておいた。