いつぶりだろう。人に涙を見せたのは…。
毎年毎年、花を持ち頭を下げていた両親。
娘を奪われて、なお俺に心を馳せてくれたこの人。
そして見ず知らずの俺のために、
18歳の生涯を閉じた裕子さん。
たくさんの人の熱い想いが涙となり、俺の頬を伝い続けた。
「すみません、何を話せばよいか分かりません」
「ならお願い」おばさんは言った。
「今、受験生よね」
「3月には素敵な報告を、おばさんに届けてくれないかしら、お母さんより先に」
思わず見上げたおばさんはイタズラっぽく微笑んだ。
「……はい!!」
俺はおばさんの家を後にした。
ポケットに何かある。さっきの煙草だ。
迷わずゴミ箱に捨てた。
それから俺はがむしゃらに勉強した。