「何から話せばいいか…」
おばさんは、そっとビデオを取り出した。
「とりあえずこれを見てちょうだいな」
それはとある日のニュース。キャスターは話す。
7月18日夕方5時頃、
トラックの前に飛び出した子供をとっさにかばった
女子高生、前田裕子さんが意識不明の重体、
病院に運ばれ、間もなく死亡が確認されました。
どうやら裕子さんは子供をかばい亡くなったらしい。
ビデオを止めたおばさんが、衝撃の言葉を発した。
「この子供があなたなの」
「え?!」
全身から血の気が引いた。
何も言えない俺におばさんは続けた。
「裕子は今のあなたと同い年だったわ。 保育士を目指してた。 子供が好きだったあの子のこと、 私は何も不思議に思わなかった。 あなたの両親には泣きながら、 何度も何度も頭を下げられた。 そんなあなたの両親に、私はひとつだけ 約束をしてほしいと頼んだの。 あなたは当時2歳。 あなたにだけはこの事実を 隠し通してやってほしい。 娘もそう願っていると…。 だから今日あなたのお母さんから、 電話があった時にはびっくりしたわ。 自暴自棄になっているあなたに すべてを話してやってほしいと言うのだから。 もちろん、あなたに恩を着せるつもりはなかった。 ただあなたが今、道に迷っているなら、 きちんと話そうと思ったの。 あなたの命はあなただけのものではない。 あなたの何気なく生きる瞬間は、 裕子があなたに命を捨てて授けた瞬間。 どうか真っ直ぐに生きて…」