そう言うとオレは、机に出しっぱなしになっていた経済原論の教科書を鞄に仕舞った。
外からは他の学生たちの声が聞こえる。
なんだかいつもより騒がしいな、と思った。
男「じゃあオレはこれで」
女「待ってください」
男「?」
女「あの・・・初対面の人にいきなりこんなこと言うの失礼かもしれませんが、もしよかったらあなたがいつも外を見ている理由を教えてください」
男「・・・」
女「誰かに話すことで、少しは気持ちが晴れることだってあると思います」
男「あなたには・・関係のないことですから」
女「そうかもしれません・・・でもあなたの尋常じゃない様子が気になって私も講義に集中できないんです。服が乾くまででいいですから」
男「・・・」
確かに初対面の人間にしては、他人の領域に踏み込みすぎだと思った。
だが、その真剣な表情は、言葉とは裏腹に、見ず知らずの人間を本当に心配しているようにも見えた。
・・・人の好意は素直に受けるべきだと思った。
そういう訳でオレは、本当に気まぐれに、名前も知らない女に、おそらくは面白くもない話をすることにした。
男「長くなるけどいいですか?」
女「はい」
***
***
ピンポンパンポーン
校内放送『2年C組の男君、昼休みに生徒会室に来てください』
「おーい、お前呼ばれてるぞ」
男「はぁー・・なんだよ。飯食う時間無くなるじゃん」
「じゃあオレら今日は先購買行ってるからな」
男「あー・・じゃあさなんかついでに買っといてくんねー?」
「しょうがねーな。何がいいんだ?」
男「甘くないのなら何でもいい」
「オッケー」
コンコン
男「しつれいしまーす」
ガラガラ
「ん?君誰?」
男「なんか校内放送でここに来いって言われたんですけど」
「?誰か呼んだの?」
女「あ、会長。私が呼びました」
「あ、女さん。どうしたの?」
女「彼のノートを拾ったので」
「そうだったんだ。あ、3年生午後プールだから僕たちもう行くけど、任せていい?」
女「はい。お疲れ様です」
ガラガラ・・・バタン
男「あ、ノート拾ってくれたんですか。すいません」
女「・・ええ。コレ、返します」
男「どーも。じゃあオレもう行くんで」
女「ちょっと待ちなさい」
男「?」
女「あなたに言っておきたいことが3つあります」
男「は?」