ジャイアン「なぁ、のび太」
帰り道でふと、ジャイアンが口を開いた。
のび太「ん?」
ジャイアン「よかったのか? しずかちゃんを出木杉と二人で帰してよぉ」
のび太「……どうして? 僕は別にしずかちゃんの恋人じゃあないよ」
ジャイアン「でも、未来の結婚相手だ」
のび太「それも、どうかな」
ジャイアン「??」
のび太「未来は変わった……そう考えるなら、ドラえもんが見せてくれた僕としず
かちゃんの未来だって怪しいよ。だったら僕にしずかちゃんを繋ぎ止める
権利なんかない」
ジャイアン「建前はわかった。本音はどうなんだ? おまえはしずかちゃんのことが
好きじゃあないのか?」
のび太「僕は……」
ジャイアン「難しいこと考えすぎんな。頭こるぞ」
そういってジャイアンはのび太の頭をはたいた。
その痛さを妙に優しく感じたのび太だった。
スネ夫はマンションの前でタクシーを降りた。
オートロックの入り口をくぐり、エレベーターを待つ。
スネ夫(のび太はしっかりしたようで、やっぱり相変わらずだな。しずかちゃんを
出木杉に持っていかれちゃってさ)
エレベーターに乗り込み、上昇を感じながらスネ夫は昔を思い出した。
いつからだろうか、スネ夫はのび太としずかの結婚を望むようになっていた。
それはタイムテレビで見た幸せな光景のせいだろうか?
あの未来だけは変わってほしくない。そう思っている自分にスネ夫は驚く。
昔は自分だって、しずかのことが好きだったはずなのに。
スネ夫(ドラえもんのせい、かな)
自分の部屋の前に着くと、ポケットに手を突っ込んで鍵を探す。
と、そのときスネ夫は違和感を感じ、顔を上げた。
窓から明かりが漏れていた。出掛けに明かりは全部消したはずなのに。
スネ夫(誰か……いる)
極力音を立てないよう慎重に鍵を開けると、
スネ夫は静かにドアを開け警戒しながら玄関に身を滑り込ませた。
傘立てからお気に入りのバーバリーの高級傘を引き抜くと、
両手で構えながら部屋の中へ入っていく。
そのときだった。
突如開いたウォークインクローゼットから人影が飛び出し、飛びついてきた。
傘をそちらに構えなおす暇もなく、スネ夫は自由を奪われる。