返信はできるだけすぐに返すし、こっちからもメール出したりもするよ、という内容だった。
正直に言って、こんなメールのやりとり自体が久しぶりだった。
ずっと仕事のメールと迷惑メールしかこなかったからね。
ただそもそも、相手が本当に女なのかもわからないし、やっぱり怪しさ十分だった。
あとで変な請求書が来たりしないかな、と詮索してたらまたメールが着信した。
「とりあえず3日間お試し期間として無料で相手してあげるから、それで決めて」
フリーメールでもないし、携帯の生アドレス同士。ちなみに俺はSE。
これで架空請求みたいな詐欺に合うことはないだろうと踏んで、俺はそのお試し期間
とやらをお願いし、メールのやりとりが始まった。
メールのやりとりは、まずお互いの自己紹介から始まった。 まずはお互いの名前。当然偽名。
俺は隆と呼んでもらうことにし、向こうは美紀と名乗った。
自分が会社員でSEであることなど、経歴を正直に書いていった。
向こうは仕事については秘密だそうだ。案外これだけが収入源だったりするのかも知れない。
暇な主婦がやってるかも知れないし、実は無職のおっさんが相手かも知れないが、
そのあたりは気にしないことにした。
いつも死ぬほど長く感じる電車が、その日はあっという間に自分の駅へと到着した。
それだけでも何か癒された気になった。恋愛は老人のボケ防止にいいと言うが
きっと本当なのだろう。架空の有料擬似恋愛のメールでも俺の気分は随分とフレッシュになった。
ちょうど電車が駅に付く頃、メールの返事もダレてどうでもいい内容になってきた頃だったので、
返信せずにメールのやりとりを一旦終了させた。
家に着くといつもの散らかったアパート。
とりあえず風呂にお湯を張り、着替えてお湯に使った。
少し冷静になり、メールの相手のことを考えた。
まず気になったのはどうやって俺のアドレスを知ったのか。
名前に誕生日というオーソドックスなメルアドなので、たまたまなのかということ。
あとはやはり本当に女なのかということだけが気になった。
25の仕事漬けの彼女もいない男が、おっさんとのメールに喜んで金払ってたら
悲しすぎるからね。
風呂上りにメールを出した。
「とりあえず、何か美紀が本当に女だってことを証明できないかな?
メールだけだと性別もわからないから、これじゃちょっとね」
しばらくメールを待つ。この感じも久しぶり。なんて返事してくるんだろうという
期待感と、怒らせるようなことを書いてしまったのではないかという不安感が
入り混じった、苦しくも心地よい感覚。メールをまつ5分が10分にも15分にも
感じられる。
しばらくするとメールが入ってくる。
「パソコン用のマイクついたヘッドホンか何かある?
それで声聞いてもらえば証明になるかな」
なるほど。こっちとしても電話番号は教えたくないのでこれなら確認できるだろう。
もしかしたら偽者を用意されるかもしれないけど、夜の12時近くにそんな手際よく
代打をたてるのも難しいだろう。