そう言ってまた俺は店の中へと戻った。もうこうなったら追い出されるまで片っ端から
店員に聞いてやる。俺は完全にやけくそになっていた。
1人、2人と声をかけ、店長にしたのと同じ質問をする。どうやら彼女が先週で店を辞めたのは
本当らしい。連絡先については「わからない」「知らない」という返事が返ってきた。まあ誰が
見ても怪しいだろうからね。知ってても教えてくれないでしょ。仕方がないよね。ケチ!
3人目に声をかけたのは、小柄な女の子だった。この時点で俺はすでに店内で完全に不審者
としてマークされていたようで、向こうの方で店員が俺のことをヒソヒソと話している姿が見えた。
3人目の女の子にも同じ質問。
「あの、ワカバヤシさんって先週で辞めてしまったんですか?私、ワカバヤシさんの友人
なんですけど、連絡がとれなくなってしまって。」
女の子の返事は、これまでとは違った意味で、カウンターパンチだった。
「あなたもしかしてタカシさん?」
そうだと告げるとその女の子は店の隅に俺を連れて行き、自分は5時であがりだから
それまで待てるかと言ってきた。当然俺は待つといい、5時過ぎに駅前のファミレスで
待ち合わせをして店を出た。
やっと少しだけ手がかりらしきものが掴めた。嬉しくてじっとしていられないのだが、
待ち合わせの時間までまだ4時間近くある。外での時間の潰し方を知らない俺は
仕方なくまたマンガ喫茶へと入り時間をつぶすのであった。俺って本当につまらない男。
昨日とはまた違った意味で、マンガもネットも頭に入らなかった。店員の子は美紀と俺の
間で使われていた俺の偽名を知っていた。あの子は事情を知っている。説明次第では
彼女との連絡を付けてくれるかも知れない。