俺が何かを相談したり悩んでいる時は、美紀はそれを本当に心配していたし、
逆に俺の方が相談にのった時は、そのことに本当に感謝していたと。
「あの子と一緒にお昼とること多かったんだけど、あなたの話たくさん出てきたよ。」
それに俺はお昼休みも彼女にメールを出し続けていた。お昼を食べながら楽しそうに
メールを打つ美紀の姿を川嶋さんはずっと見てきていたのだ。
仕事の最中も暇を見つけては俺にメールを打つ彼女を見て、アルバイト先では
すっかり美紀は彼氏持ちとして扱われてたらしい。
ここまでの話を聞いて、俺は初対面の女の子の前で、恥ずかしながら泣いて
しまった。店には他の客もいたっていうのにね。だって嬉しかったんだ。メールを
楽しみにしていたのは俺だけじゃなかったんだ。彼女にとっても俺とのメールは
生活の一部になっていて、俺の中にずっと彼女が居たように、彼女の心の中にも
ずっと俺の存在があったんだって分かってさ。
ポロポロとひとしきり涙を流した後、俺はまた川嶋さんに質問をした。
「それで何故美紀はそんなにお金に困っていたの?」
川嶋さんはしばらく考え込んでいた。勝手に俺にそんな話をしていいのかどうか
考えていたのだと思う。しばらく考えた後、川嶋さんは事情を話し始めてくれた。
「美紀が両親とうまく行ってなかったのは知ってる?」
その話ならしっていた。3人兄弟の一番上で、下の弟と妹は出来がいいと言っていた。
自分だけが出来が悪いと美紀はコンプレックスを持っているようだった。
家庭の事情は人それぞれ。放任主義の家で育った俺には全くわからない
話なのだが、美紀の両親は美紀が高校を卒業したあと、大学に進学するか
地元で就職することを望んでいたらしい。
美紀は両親の言いなりになるのが嫌だったのか、自分の力で何かにチャレンジ
したかったのかは分からないが、両親に反抗して東京で一人暮らしを始めた。
ただ、一人暮らしのフリーター生活ではお金に困るだろうと、両親はわずかながら
1年限り仕送りをしてくれることを約束してくれた。
