【クレヨンしんちゃん】しんのすけ「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」誰も知らない22年後・・・

……しかし、順調に見えたオラにも、不景気のあおりが来ることになった。

それから数日後の会社。オフィス内は、ざわついていた。

「……おい、これって……」

「……嘘、だろ……」

皆一様に、掲示板に張り出された通知を凝視する。

そこに記載されていたのは、従業員削減の通知――つまりは、リストラ予告だった。

今のところは小規模のようだ。
各課1~3名が選ばれる。そしてオラがいる部署は、たった一人だ。
しかし、オラの部署には家族持ち世帯が大多数だ。
最近結婚した者、子供が生まれたばかりの者、子供が小学生に入学したばかりの者……それぞれに、それぞれの暮らしがある。

「……課長……」

「……ああ、野原か……」

廊下のソファーに、課長が項垂れて座っていた。オラはその隣に座る。

「……課長、リストラって……」

「……ああ。私に、一人選ぶように言われたよ。まったく、部長も酷なことを言ってくれる。
私に、選べるはずもないじゃないか……みんな、可愛い部下なのに………」

「………」

課長は、目頭を押さえていた。目の下にはクマも見え、頬もやつれているように見える。課長も、かなり悩んでいるようだ。

「……いざとなれば、私が……」

「でも課長、先日お子さんが私立の中学校に入学したばかりじゃないですか……」

「……野原、家庭の事情は、人それぞれだ。誰も辞めたくないに決まってる。それでもな、誰かを選ばないといけない。それならば、いっそ……」

課長は、語尾を弱める。覚悟と迷い……その両方が、課長の中に混在しているようだ。

――そうだ。誰でも、家庭がある。日常がある。その誰かが辞めなければならないなら……それなら……

「……課長……」

「……?」

「……オラが、辞めます」

「な、何を言ってるんだ野原!」

「誰か辞めないといけないなら、オラが辞めます。オラは、まだ結婚していませんし」

「し、しかし!妹さんがいるだろう!?」

「妹は働いていますし、何とかなりますよ。それに、オラまだ若いので、次の仕事も見つけやすいですよ」

「……だ、だが……!!」

「――課長、ここは、オラにカッコつけさせてくださいよ」

「……」

「……」

課長は一度オラの顔を見て、もう一度項垂れた。そして……

「……すまない、野原……すまない……」

課長の声は、震えていた。
オラは分かってる。一番辛いのは、誰かを選ばなければならない課長自身であることを……
だからオラは、あえて笑顔で答えた。

「……いいんですよ、課長。これまで、お世話になりました―――」

課長は、何も答えなかった。
誰もいない廊下には、課長の涙をこらえる声が聞こえていた。

そしてオラは、無職になった――――

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