彼女が小学生の頃から中学出たら働くと言っているのを、なんとか説得してと頼まれて。
俺の言う事なら聞くかもしれないと言われて、その気になって。軽く引き受けた。
それとなく色々話振ったけど、頑固で。とにかく早く中学出て働きたいとしか言わなくて。
高校は出るのが普通。俺はそう思い込んでいて。口にはしないけど、変だとまで思ってて。
焦る事無いとか、しっかり考えてからとか、解ったような事言い過ぎたかもしれないし、
他にも何か気に障る事があったのかもしれない。けど直接の引き金は、俺の無神経な一言で。
「早く働きたい理由って何?」それで、彼女の顔からすっと表情消えて。
「…おかね、ないからですけど。」抑揚の無い声で。冷たくて。細い針のような言葉で。
真っ直ぐ見据えられて。返す言葉が無くて。思わず目をそらしたら、彼女も視線落として。
お互いそのまま、動けなくて。彼女が黙って帰ろうとしても、言葉をかけられなくて。
それ以来、進学とか就職の話は、俺には出来なくなって。お婆さんには謝って。
お婆さんも、彼女が言った言葉を聞くと、辛そうで。言葉無くしてて。謝られて。
まだ気変りがあるかもしれないから、とりあえず触れない。そんな感じで、先送りになって。
俺が手を出せる事じゃなくて。その力も無くて。情けなくて。浮ついていた気持ちも吹き飛んで。
彼女が毎日、俺の部屋に来るのは変わらなかったけど、一緒にいても空気重くて。
会話しててもぎこちなくて。謝っていいのか、それも解らなくて。部屋に居づらくて。
なのに家帰った時、彼女が来てくれると安心して。そんな日が続いて。
でも帰った時、通路にいた彼女が普通に「お帰りなさい。」そう言ってくれて。
何日かぶりの事で。俺もなんとか「ただいま。」言えて。笑ってくれて。
一緒に部屋入って。定位置にいつも通り座って。それでやっと、重さが少し散った気がした。