俺は嫌な予感に押しつぶされそうになっていて、キスしたことを全く喜べなかった。
むしろそのキスが嫌な予感にとどめを刺していて、重い足取りでアパートへと戻った。
「考えさせて」と言われてしまい、メールが出せなくなってしまった俺は、何度も携帯を
チェックしながらその日を終えた。すぐに返事が来るだろうという淡い期待は打ち砕かれ
彼女からのメールは次の日になっても、その次の日になっても中々来ないのであった。
彼女とのメールのない日々は、まるで胸の真ん中にぽっかりと穴を開けてしまったかの様に、
俺の毎日を空虚で味気ないものへと変えてしまった。まるで体の半分を切り取られたみたい。
思えば朝起きてから夜眠るまで、食べた食事の内容や、満員電車の愚痴、会社で起こった
些細な出来事の全てを俺は彼女に伝えていたのだ。日々体験する出来事を共有できる
相手を失い、俺の生活はまた灰色のモノクロームな世界へ戻ってしまった。
彼女からようやくメールが届いたのはその週の金曜日だった。メールの内容はあっさり。
「色々考えましたが、やはりメールを続けることはできません。色々とご迷惑をお掛けしました。
本当にごめんなさい。」
メールを受信したのは会社帰りの電車の中だった。背中に冷や水を浴びせられたような
感覚が走り、視界はグラグラして、電車の中で倒れそうになった。考え直して貰えるよう
返事のメールを打とうとしたけど、指先が震えてうまくボタンが押せない。それに何を
書いていいのかが分からない。
とりあえず落ち着こうと、その場でメールを書くのはあきらめ、とりあえず家に帰ることにした。
いつものようにコンビニで弁当を買い、アパートへと戻った。だが食欲が全くない。
おなかは空いてるはずなのにね。とりあえずシャワーを浴び、水を飲んで気持ちを
落ち着け、彼女へのメールを打ち始めた。
「できれば美紀が考えたことと、メールを続けられない理由を教えてもらえないか?
俺の生活の中ではもう美紀とのメールは生活の一部で、ただこんな風にもうメールは
できないと言われても、気持ちの整理がつかないよ。無理言ってごめん。」