彼女が話したのはだいたいこんな内容だった。
自分はフリーターで事情があって少しお金に困っていたこと。
アルバイトをしながらお金を稼ぐ方法として、有料のメル友を思いついたこと。
偶然彼女の働く店に俺が来て、ポイントカードを作ったので、そこからメルアドと
電話番号を調べたこと。
なんで俺を選んだのかと尋ねると、彼女は自分と同じで寂しそうだったからだと答えた。
彼女の自分を責めるような話し方が悲しかった。俺は何も怒ってはいないし、むしろ感謝
しているのに。俺は一生懸命に彼女にそのことを伝えた。君とのメールのやり取りが、
どれだけ楽しかったか。寂しかった心がどれだけ癒されたか。灰色のモノクロームだった
毎日が、彼女のおかげで鮮やかに色づいたことを。
彼女はただ「ありがとう」と言い、罰の悪そうな表情は最後まで消えることはなかった。
気まずい沈黙が続き、彼女は「ごちそうさま」と言った。そして酔って迷惑をかけた
ことを改めて詫び、もう帰ると言った。俺は駅まで送ると申し出て、ふたりでアパートを
でて駅へ向かった。
重い沈黙は歩いている間もずっと続き、駅まではあっという間に着いてしまうのだった。
通勤の時は毎日あんなに長く感じられるのにね。
駅の改札まで着くと、俺は嫌な予感が抑えられず、彼女に尋ねた。
「ねえ、メールは続けるんだよね?」
彼女はしばらく黙ったままで、「少し考えさせて」と言い切符を買いに行った。
切符を買って戻ってくる彼女。なかなかサヨナラを切り出せない二人。
やがて電車の到着を告げるアナウンスが響き、彼女は「じゃあ行くね」と言った。
黙ってうなずく俺に彼女はそっと近づきキスをした。人目は全く気にならなかった。
「バイバイ」と言って彼女は改札に吸い込まれ、電車は走り去っていった。