姉「……は?」
弟「い、いや、な、なんか普段と感じ違うなぁって」
姉「…??……文章だから多少口語と違うのはあたりまえでしょ」
弟「え、いや、そうじゃなくて、なんか雰囲気というか、内容というか」
姉「なんか文句あるの?」
弟「い、いや、そうじゃない。そうじゃないけど…」
姉「…ちっ……ケチつけてんの?」 ギロッ
弟「つ、つけてない。つけてないよ!!うん!!
これからもよろしく!メールいつでも送ってね!」
姉「………ちっ………」
それからというもの、姉ちゃんのメール魔っぷりときたら、
すさまじいものがあった。
今は少しは落ち着いたほうだが、当時の昼夜家の中外問わず送られてくるメールの量は半端ではなく、
それに対応する様を見て友人たちに彼女の存在を疑われる程だった。
ここからは俺の推測だが、普段はああな姉ちゃんだが、実生活では真面目一本、
教科書が友達みたいな人だったために、普段の口調でメールを打つ、という事が概念から理解できないのだと思う。
いやそれにしたって普段の態度との落差が激しすぎる理由にはならないけど…。
そんなこんなで俺が大学生、姉ちゃんが社会人になった今では、
俺がかなわないぐらいのメールさばきを見せている。主に対象は俺だが。
当時からずっと使い続けている携帯のダイヤルは、既に磨り減って文字の印刷がなくなっている。
ブーン ブーン
タイトル:試着は済みましたか?
本文:私が選んでみた服、どうでしょうか。
さっきの服もとても素敵でしたが、
今選んだ服もきっと凄く格好いいと思います。
着終わったらちゃんと私にも見せてくださいね。
試着室の前で今、期待で胸がいっぱいです。
ね、姉ちゃん、まだ上着も脱いでないよ…メール早すぎ。
~姉メールビギニング 完~
飲み物を取りにリビングに行くと、姉ちゃんがタバコを吸っていた。
テーブルの上にこれ見よがしにDVDが置いてある。
弟「あ、これ結構話題になったやつだよね?もう観た?」
姉「……まだ」
弟「あ、いつ観るの??俺も観たいな。」
姉「いつ観ようが私の勝手」
弟「あー…うん…そうだよね。うん。」
姉「………ちっ……」
めんどくさそうにDVDをプレーヤーにセットし、
予告の間に、てきぱきとかつめんどくさそうにお菓子とコップ、ジュースを用意しだす姉ちゃん。
うーんと、コップ二つあるし、これは俺もみて、いいんだよな…。
姉ちゃんの横に座り、そのまま本編へと突入する。
内容は密室に鎖につながれたまま閉じ込められた二人が…という感じの、
衝撃のラストが売りの映画だ。
弟「姉ちゃんてこういうちょっとグロいの好きだよね」
姉「うるさい。黙って観れば」
弟「………」
…………
緊張、絶望、そして謎が張り巡らされたストーリーに徐々に入り込むもつかのま、
前日遅くまでゲームしたのが祟って、なんとこんなときに少し眠くなってしまった。
弟「…………」コクリ、コクリ
姉「………ちっ………」 パカッ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
ブーン ブーン
弟「うおっ!?」
姉「……ちっ…」
姉ちゃんからのメールではっと我に返る。
タイトル:眠いですか?
本文:眠そうですね。
眠かったら無理せず寝てください。
DVDはまた今度でもいいです。
うう…ばれてる。
でも、正直眠い。もうストーリーちょっと飛んでるし…。
うーんどうしよう。
あ、でもなんか今日はちょっと姉ちゃん機嫌がよさげな気もするし、
ちょっと、もののためしに、少し甘えてみたりなんかどうだろう。