「私にはおにいちゃんがいたんだって。とはいっても産まれてはないけど……生まれる少し前にね、買い物に出掛けてたママがバイクに乗ったひったくりあって、倒れて流産しちゃったんだって。産まれてたら多分風間さんと同じくらいよ。ママたちは名前まで考えていたんだって。それが……しんのすけ……。風間さんの話を聞いて、ママ泣きながらそういってた。ママね、しんのすけがずっといるような気がしてたっていうの。いがぐり頭で眉毛が太くてお調子者のしんのすけがずっといるような気がしてたって三人じゃなく四人でずっといたような気がするって。でも、夏が終わってからそれがなくなった感じがするって……」
「私もなんだか夏が終わってからポッカリ穴が開いた感じだった。今年の夏はすごく楽しかったからきっとそれのせいだっておもってたけど。なんだかすごく大切なものを忘れてる気がするの。家にいるときもパパやママが揃ってるのに、誰かを探している自分がいる。私だけじゃなく、パパもママも。きっとママのいうように最近までおにいちゃんがいたんだって感じるの」
その夜僕は夢を見た
『よっ』
しんのすけは悪びれもせず手をあげて挨拶した。
成長したしんのすけではなく、幼少のころのしんのすけだ。
いがぐり頭で眉毛が太くて、いつもの赤いシャツに黄色いズボン。パンツはアクション仮面で……
「よっ!じゃないよ!今までどこにいってたんだよ!みんなしんのすけのこと忘れてるぞ?ボク以外のみんなお前のこと知らないって言うんだぞ!」
『うーん、でも風間くんが覚えててくれるならそれでいいぞ。オラ、この世界に産まれる予定ではなかったんだし』
「しんのすけ…。でも僕は小さいころからお前と一緒たったじゃないか!小さいころから、大きくなったしんのすけのこと知ってる!」
『オラ、楽しかったぞ。みんなと過ごせて。オラ、母ちゃんのお腹のなかで死んでから、母ちゃんが心配だったんだぞ。母ちゃんずっと泣いてたから。だから少しの間って約束でこの世界に存在していいことになったんだぞみんなのと過ごせて楽しかったぞ。オラが、消えてしまったみんなオラのこと忘れてしまうことはしってたぞ。でも、やっぱり忘れてほしくなかったから風間くんがオラのこと覚えててくれてうれしかったぞ』
「しんのすけ……僕は絶対忘れない。お前のこと」
『ありがとう』
しんのすけは照れた笑顔を浮かべながらきえた
それ以来しんのすけが現れることはなかった